Call of Unread Books

なんだか呼ばれてるきがする

岩松正洋「「記号論」以後の物語理論」

 前回更新から間があきました。新しい職場で研究環境の整備中です。
 大学院に入ったときはいろんな文学理論を読むぞ~と張り切っていたのですが、いざ研究を始めてみると夏目漱石についてほぼ手つかずの厖大な資料があることがわかり、博士課程の五年間はほとんどかかりきりでありました。漱石資料についてはまだまだやり残したこともあるのですが、しばらくは文学理論の勉強をしたいとおもっています。そういうわけで、不勉強のうしろめたさから、こんなブログタイトルなのです……。いえ、本が呼んでる気がするのは、幸せなことです。
 
 さて、どこから勉強を再開しようか、といくつか以前読んだ論文を再読しています。マリー=ロール ライアン(Marie‐Laure Ryan)『可能世界・人工知能・物語理論』の訳者でもある岩松正洋氏に、次のような論文があります。
 

 

  この論文は、コンパクトな研究状況の概説として、今読んでも頭の整理になりました。

 言語学的モデルに依拠して物語の理論を構築しようという傾向は、プロップ、バルトからブレモンを経てアメリカの文学理論家たちにまで広く見られる特徴だった。(略)初期トドロフジュネットらの業績が、誤解から必要以上に「記号論」との関連で取り沙汰されていた観もある。
 岩松氏は「物語論narratology」よりも広い範囲をさすものとして「物語理論narrative theory」という言葉を用いて、ポスト構造主義以降に批判されがちな「物語論」の在り方を乗り越えようとする「物語理論」のいくつかの実践を素描しています。
 
・アンドリュー・ギブスン『物語のポストモダン理論に向けて』

Towards a Postmodern Theory of Narrative (Postmodern Theory Series)

小説や映画だけでなく、ルーカスアーツなどの、コンピュータを活用したインタラクティヴ・フィクション(IF)をも視野に収めようとしている[Gibson, 275-278]。ジュネットからライアン(後述)に到る物語理論のモデル作りが幾何学的であることを指摘し、熱力学的「強度」を掬いとれるような物語理論を構築する方向を探ろうというもので、ドゥルーズデリダの発想を愚直すぎない程度に応用しようと試みている。(略)旧来の文化研究(cultural studies)に物語理論を接木したようなところがあって、そこがこの著作の危ういところでもある。文化研究やイデオロギー批評にしばしば見られる状況還元主義をこの方法で乗り超えられるという保証はない。

  以前ある研究会で教えていただいたJean-Marie Schaeffer. Why Fiction? (Stages)にもポスト構造主義が取り込まれていて興味ぶかかったです(英訳を買いましたが、読み終わっていません)。

 その他、おもに以下の本を位置づけています。
 
・トマス・G・パヴェル『虚構の世界』
・マリ=ロール・ライアン『可能世界・人工知能・物語理論』

可能世界・人工知能・物語理論 (叢書 記号学的実践)

・モニカ・フルーデァニク『「自然」物語論にむけて』
『「自然」物語論にむけて』の最大の特徴は、「物語」の定義に変更を求めたところだ。従来の物語論において、物語を物語たらしめているのは「媒介性(語り手の存在)」と「筋(事象=できごとの存在)」だった。(略)いっぽうフルーデァニクは「体験する意識」「経験性」を物語性の必須条件と見なし、事象は必ずしも必要とされない、と論じる。 

  

 最後の『「自然」物語論にむけて』は、遠からず読みたいと思っています。私がぱらぱらとながめた近年の本でも、同書への応答としてUnnatural Narratology(不自然物語論?)を提唱する人が出て来たり、対面の語りや日常生活の認知へ分析対象を拡げた成果などと関わってCognitive Narratology 認知物語論系の人も言及しているようです。
 目次を貼っておきます。ペーパーバック、Kindle版も出ている。私は語学力がしんどいので、Kindle版が出ていると助かります。でも、紙の本の存在感があったほうが、読むモチベーションが保てたりする(のは、まだ私が電子書籍になじんでいないだけなのだろうか)。

Towards a 'Natural' Narratology

 
Towards a 'Natural' Narratology
By Monika Fludernik
 
Table of contents
Title Page iii
Contents vii
Preface xi
Acknowledgements xv
Prologue in the Wilderness 1
1 - Towards a ‘natural’ Narratology 12
2 - Natural Narrative and Other Oral Modes 53
3 - From the Oral to the Written 92
4 - The Realist Paradigm 129
5 - Reflectorization and Figuralization 178
6 - Virgin Territories 222
7 - Games with Tellers, Telling and Told 269
8 - Natural Narratology 311
In Lieu of an Epilogue 376
Notes 379
References 407
Author Index 443
Subject Index 448

 

これからも読んでない本のことを書いたり、読みかけの本についてメモしたりするかもしれません。読んでない本はワインの貯蔵のようなもので、なくなったら困るでしょう、とエーコが言っていたので、のんびりやります。

もうすぐ絶滅するという紙の書物について