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なんだか呼ばれてるきがする

やまなし文学賞を受賞しました(選評ほか)


 『はじまりの漱石 『文学論』と初期創作の生成』(2019年9月 新曜社)に対し、樋口一葉記念第28回 やまなし文学賞(研究・評論部門)を頂きました。同時受賞は河野龍也『佐藤春夫と大正日本の感性―「物語」を超えて』(2019年3月 鼎書房)です。

はじまりの漱石ー『文学論』と初期創作の生成

 

やまなし文学賞とは→ https://www.bungakukan.pref.yamanashi.jp/prize/

 

 『山梨日日新聞』に取り上げていただきました。

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山梨日日新聞』(20200311)11面

研究・評論部門の選考委員は中島国彦さん、関川夏央さん、兵藤裕己さんのお三方です。

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やまなし文学賞最終選考会(『山梨日日新聞』20200229、12面)

  新型コロナウイルスの流行を受けて授賞式が中止となったため、当日配布される予定だった受賞の言葉と選評を載せます。

 

やまなし文学賞 受賞のことば

 『はじまりの漱石』は私のはじめての本です。漱石は「文学とは何か」という根本的な問いに取り組み、独自の文学理論を構築しようと試行錯誤しました。その営為は、旺盛な創作活動と絡みあっています。そうした初期漱石の全体像を明らかにしようとするなかで、私自身も「文学研究」や「文学理論」とはいったい何なのかを自問自答するようになりました。本書では作家の自筆資料だけでなく、学生の受講ノートや書籍の重版を探索し、中国語で書かれた批評や翻訳などにまで調査範囲を拡げさまざまな研究方法を接合しようとしました。「近代文学研究」の確立以前に領域横断的な「知」を作り出そうとしていた漱石の壮大な野心に、感化されていたのかもしれません。

 私の祖父庵逧巌(あんざこ・いわお、1930-1979)は国語教育・国文学研究に携わり、のちに山梨大学教育学部に勤めました。甲府にある祖父の書斎でミシェル・フーコー『狂気の歴史』(田村俶訳、新曜社、1975)を見つけたとき、知的探究心に燃える40代半ばの学究の徒の姿を思い描きました。この度、かたじけなくも頂戴した賞を、一度も出会うことのなかった亡祖父の思い出に捧げたいと思います。

 

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