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新刊:『はじまりの漱石ー『文学論』と初期創作の生成』(新曜社) 紹介と詳細目次掲載

私の最初の単著が出ます! たくさん買ってね!

はじまりの漱石ー『文学論』と初期創作の生成

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『はじまりの漱石』書影


以下、もう少し詳しく説明します!

(目次、書誌情報、通販のリンクは記事末尾に載せます)

※ いまのところ(2019/09/02現在)、通販サイトだとamazonで予約できるようです。書店や大学生協でもご注文をお願いします。

 

 冒頭のツイートでも紹介しましたが、ずっと目標としていた小森陽一先生に帯文を頂きました。引用します。

 「東京帝国大学英文学科講師夏目金之助の試行錯誤の軌跡を、受講した学生たちのノートから、講義の現場に戻つて辿り直す画期的な著作。
これまでの、「理論家夏目金之助」と「小説家夏目漱石」という二項対立の布置に、「講師夏目金之助」 という第三項を導入することで、漱石夏目金之助の知的営みを、世界文学の関係性の中で著者は位置づけ直すことに成功した。
〈理論と実践の統一〉という、漱石夏目金之助論の中で出来上っていたこれまでの枠組を壊し、小泉八雲ラフカディオ・ハーンをはじめとする同時代の先行文学者と、教室で教えた多くの教え子たち、そして海を渡った中国の文学者たちとのかかわりにいたるまで、本書の第三項の射程は挑発的である。(小森陽一)」

 

 この本は、

夏目漱石が小説家デビューする時期、東京帝国大学の英文学科でどのような講義をしていたのか?

・創作と講義、さらには講義をもとに加筆した文学理論書『文学論』とはどのような影響関係にあるのか?

・『文学論』はのちの作家にどう読まれたか?

 などの問題を扱った本です。

 

 特色としては、

漱石の帝大講義を受けていた受講生のノートを調査した(全部調べたのは初)

・受講生のノート中に含まれていた漱石の帝大講義の序論(新発見資料。ただし『定本漱石全集』26巻に‘On General Conception of Literature’として収録)をもとに、留学から帰ったばかりの漱石が講義で東洋・西洋の文学を跨いで「文学」概念を基礎づけようとしていた(が、やがてその授業計画を撤回した)ことを論証

・帝大生の日記から推定して時間割を復元した(荒正人小田切秀雄『増補改訂漱石研究年表』は漱石の講義時間について誤りが多い)

・講義の段階で、漱石が文学を演劇とのアナロジーで考察していた点に注目

・理論(『文学論』)から初期創作(『草枕』や『野分』など)への影響という一方通行の考え方ではなく、理論と創作ができあがっていく過程で互いに影響を及ぼし合っていたのではないか?という発想(タイトルの「生成」はそういうノリです)

・『文学論』受容の研究の一環として、張我軍による中国語訳(1931年上海で刊行)、成仿吾の文芸批評における『文学論』の(F+f)の応用(1920年代半ば、上海で刊行)に注目

 といった点が挙げられます。

 わりと時間のかかった調査の成果です。以下の「マップ」を見ていただくと、資料がたくさんあって調べるのが大変だったろうなあ……と想像していただけるのでは(マップのくわしい見方は「はじめに」に書いてあります)。ちなみにマップをつけるというアイディアは以下で紹介する山本貴光さんの本に影響を受けました。

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『文学論』関連資料マップ

 

 これまで、『文学論』全体をあつかった書物では以下のものがありました。

漱石のセオリー―『文学論』解読文学問題(F+f)+

 『漱石のセオリー』は一般の漱石ファンにもしたしみやすい文体で、『文学論』各章の内容を解読・解説していく本です。現在、入手しにくいのが残念なところです。

 『文学問題(F+f)+』は『英文学形式論』『文学論』を一体のものとして捉え、そのエッセンスを現代語訳を添えて紹介したうえで、現代の文学理論や諸科学とどのように接続してバージョンアップできるのかを構想する本です。(山本さんには御著書刊行記念に対談に招いて頂きました。山本貴光・服部徹也 対談 来たるべき文学のために 『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

 どちらもおすすめです。

 また、現在『文学論』を読むならば、一番使いやすいのは岩波文庫版『文学論』です。なぜなら、引用される英文の日本語訳が、本文中に載っているからです。『定本漱石全集』14巻は文庫より注釈が多くて本格的ですが、引用文の日本語訳も巻末注に回されている点で、通読するときやや面倒かもしれません。気合いの入っている方は全集版をどうぞ。

文学論〈上〉 (岩波文庫)文学論〈下〉 (岩波文庫)文学論 (定本 漱石全集 第14巻)

 

はじまりの漱石

『文学論』と初期創作の生成

新曜社 2019年9月6日発行
A5・400ページ
定価4,600円+税
 
目次

はじめに
一 漱石 対 金之助
二 『文学論』の生成
三 講師夏目金之助
四 本書の構成

第一部 東京帝国大学文科大学英文学科という環境

第一章 新帰朝者夏目金之助――ロンドン留学と前任者小泉八雲の影
一 近代文学研究の草創期
二 ロンドンの夏目金之助
三 小泉八雲夏目金之助
四 スペンサー主義者小泉八雲

第二章 帝大生と「文学論」講義――受講ノートと時間割
一 大学生と講義の〈間〉にあるもの
二 大学ノートと授業風景
三 漱石講義の帝大生受講ノート
四 中川芳太郎受講ノートの整理と分析
五 金子健二・木下利玄の時間割

第三章 「形式論」講義にみる文学理論の構想――「自己本位」の原点
一 刊本から講義へ遡る意義
二 受講ノートとの比較
三 「外国語研究の困難について(序論)」
四 「自己本位」の原点
五 「Style」と「文体」

第二部 「文学論」講義と初期創作

第四章 シェイクスピア講義と幽霊の可視性をめぐる観劇慣習(コンヴェンション)――「マクベスの幽霊に就て」から『倫敦塔』へ
一 漱石が観たシェイクスピア
二 帝大生の観た沙翁
三 「マクベスの幽霊に就て」の論理
四 「文学論」講義と『マクベス』講義の並行
五 「文学論」講義における「人工的対置法」の二段構造
六 悲劇=喜劇論から観客論へ
七 観客と読者のあいだに
八 『倫敦塔』における劇場空間の隠喩

第五章 《描写論》の臨界点――視覚性の問題と『草枕
一 「文学論ノート」における「幻惑」論
二 講義における視覚性の問題
三 『文学論』加筆部における《描写論》
四 《描写論》の臨界点
五 残像のコラージュ
六 「理論」の代補
七 『草枕』の理論化

第六章 「間隔的幻惑」の論理――哲理的間隔論と『野分』
一 『アイヴァンホー』読解と「間隔的幻惑」
二 『文学論』における「忘却」の意識理論
三 『文学論』の余白と『野分』――哲理的間隔論
四 『野分』の思想・技巧――感化への意志と幻惑の装置

第七章 「集合的F」と識域下の胚胎――『二百十日』への一視点
一 『二百十日』の位置
二 革命・豹変と「識域下の胚胎」
三 〈集合的(F+f)〉
四 器械的模倣
五 群集心理学における伝染の法則
六 「集合的F」に加筆されなかったこと

第三部 『文学論』成立後の諸相

第八章 漱石没後の『文学論』の受容とその裾野
一 なぜ漱石没後受容が重要か
二 『文学論』の裏方、中川芳太郎
三 〈「不都合なる活版屋」騒動〉
四 アカデミズムと入門書
五 〈通俗科学〉の時代

第九章 張我軍訳『文学論』とその時代――縮刷本・『漱石全集』の異同を視座に
一 中国における受容
二 張我軍の翻訳活動と時代状況
三 その「原文」とは何のことか?
四 本文の成立過程
五 複数化する本文
六 原著の異同と訳文との照合

第一〇章 「文学の科学」への欲望――成仿吾の漱石『文学論』受容における〈微分
一 成仿吾の『文学論』受容と変容
二 〈微分〉と図示のレトリック
三 成仿吾と大正教養主義
四 漱石漱石受容における「文学の科学」への欲望
五 移動が理論をつくる

おわりに

あとがき

事項索引

人名索引