ジョン・ピエール John Pier さんの論文「Is There a French Postclassical Narratology ?」を読んだのでメモ。フランスにおけるナラトロジーの研究状況の整理。タイトルは反語で、要するにフランスではアメリカの「ポストクラシカル・ナラトロジー」は流行ってないよ、という趣旨。
初出
John Pier. Is There a French Postclassical Narratology ?. Greta Olson (dir.); Introduction de M. Fludernik et G. Olson. Current Trends in Narratology, Walter de Gruyter, pp.97-124, 2011, Narratologia.
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目次
1. Introduction
2. From Classical to Postclassical Narratology
3. Francophone Narrative Theory
4. A French Postclassical Narratology? French Discource Analysis
5. Text and Discourse
6. Discourse between Compositional Structure and Speech Genres
7. Discourse: The Ongoing Issues
1. Introduction
2. From Classical to Postclassical Narratology
3. Francophone Narrative Theory
4. A French Postclassical Narratology? French Discource Analysis
5. Text and Discourse
6. Discourse between Compositional Structure and Speech Genres
7. Discourse: The Ongoing Issues
1.2節をざっくりと
1.序論
かつてナラトロジーを支えていた構造主義言語学への信頼は失われたし、ジュネットの理論はいまも重要だがその術語体系は言語学というより伝統的文法論を思わせるものだった。ドミニク・マングノー(Dominique Maingueneau)*1によれば、ナラトロジーは多くの用語を言語学から比喩として借りているのであって、言語学のおかげで発展したわけではほぼないという。
2.古典的ナラトロジーからポストクラシカル・ナラトロジーへ
デヴィッド・ハーマンらはこうして下火になったナラトロジーを「古典的ナラトロジー」と呼んで、より包括的で自由な理論として「ポストクラシカル・ナラトロジー」(以下PN)を提唱した。四つに大きく分ければ、
- ナラトロジーのコンテクスト主義化。たとえば「フェミニスト・ナラトロジー」のように、受容のコンテクスト(イデオロギー的、社会的、心理学的、倫理的、など)を重視するなど。
- 物語論的転回。歴史学や法学などで「物語(ナラティブ)」概念が用いられた。そのフィードバック。
- 異種横断的ナラトロジー(transgeneric narratology)。詩や演劇*2、はてはメディアを横断して絵画や彫像、音楽、ゲームなどを分析対象に含めていった。
- 文学以外との学際的相互交流。談話分析との橋渡しをするモニカ・フルダーニク(Monika Fludernik)、認知科学を参考にするデヴィッド・ハーマン(David Herman)やマンフレッド・ヤーン(Manfred Jahn)。
PNは統一されたものではなく、相容れないものどうしをもまとめたグループとしての呼び名。あまりに多様化したナラトロジーの研究状況をアンスガー・ニュニン(Ansgar Nünning)が「ナラトロジーたち」(Narratologies)と呼んだのを引合いに出してもいいだろう(なおニュニンによればそれ以前のナラトロジーも一枚岩ではない)。PNはいずれも物語理論の研究であって、理論を応用して個別の作品を解釈する「批評」とは異なるものだ(仮に、使い物になるかどうかテストしないと理論の価値が証明できないとしても)。しかしPNという言い方は英米系のもの(English-language scholarship)であって、フランス語圏の物語理論家でこの名称を用いる人はほとんどいない。
この論文が描くところのアメリカでは「自称ナラトロジー」が乱立して大変そうな様子です。たぶんそうなんでしょう。
で、このあとフランスの物語理論家を紹介する3節のあと、終わりまでだいたい言説分析の話です。続きはいずれ。